1. ホーム
  2. Kenちゃん先生インタビュー
  3. インタビュー
  4. 西脇院長に聞く-【第2回】いいストレスと悪いストレス

インタビュー

――社会の変化とともに、ストレスのかかり方も変化し、それが疾病構造の変化にもつながっているというのは興味深いですね。

西脇:(現在使われている意味の)ストレスって言い出したのは、実は1930年代のセリエっていうカナダの生理学者なんですけどね。
ストレスっていうのは本来は物理学用語なんですよ。物体がひずむっていう意味なんです。

――物体のひずみ?

西脇:ひずむんですよ。だから、長崎は、ほら、造船が盛んでしょ。
で、タンカーなんか作るでしょ?そしたら、タンカーの船体をひずませますよね。それを「ストレス」って言うんです。
だから、職工さんなんかが(依存症で)入院してやってくると、僕がスライド勉強会なんかで「ストレスがかかってどうのこうの...」って解説したら、「いや、僕らも現場で使いますよ」って言ってね(笑)
船体をひずませるのと同じように人間の体もひずむんですね。
一番典型的なのは胃潰瘍です。胃の粘膜がひずんでくぼみが出来るわけでしょう。穴が空いたら胃が穿孔したってことになって大変です。
それから、ストレスがかかって血管がひずむ、つまり收縮して血圧が高くなるとかね。
でも、僕らの若いころにはストレスなんて言葉はあまり聞かなかったですよね。
それに、ストレスには「いいストレス」っていうのもあるんです。

――「いいストレス」?

西脇:ええ、ほとんどが「いいストレス」なんですよ。
今はストレスということが本当に広く言われていて、仕事でもなんでも、悪いものの代表みたいに使われていますね。
だけど、じゃ~そしたら何もない状態がいいか、というと。それもまたストレスなんです。
例えば、退職して、年金生活が始まります。それで、毎日が日曜日っていうのはね、これは非常に悪いストレスなんです。

――やることがない、というのもストレスになると。

西脇:そうですね。
会社退職するでしょ? そしたら肩書きがなくなりますね。これは悪いストレスですよ。 
だから、そのために地域で、自治会とか老人会とかが組織され、地域をまとめてくれるような会長、幹事といった肩書が必要、意味を持ってくるのです。

そういう会なりに参加して、役職に就いていただくと。そしたら、また社会的肩書きも生まれるじゃないですか。その役職を務めるのは、それはそれで大変だけどね。

――大変だけど、そういうやりがいみたいなものは「いいストレス」になるんですね。

西脇:ええ、いいストレスなんですよ。はい。

――そういえば、うつ病の方に「頑張れ」と言ってはいけない、という話がありますよね。それは、やはり悪いストレスになってしまうということなんでしょうか。

西脇:いや、それが最近は少し変わってきましたね。
うつ病の患者さんに頑張れと言ってはいけないっていうふうに、ずっと今までは金科玉条のごとく言われてきました。でも最近、そうでもないと。
ケースバイケースで、少し後押ししてあげるのも必要な方とか、そんな時期もある、と言われるようになってきていますね。
強く「頑張れよ」っていうふうな叱咤激励はちょっと駄目ですけども、ご本人がやる気が出るまでそっとしとくのも如何なものかと。
そんなとき、同じうつ病に罹った方の声掛けが有効ですね。
これを「ピア(当事者)サポート」、「ピアカウンセリング」と呼んでいます。
うちの病院ではうつ病に限らず、いろんな精神疾患、家族の方がグループ・ミーティングといった形で、そんなことを支援し合う集いを行っています。

――悪いストレスでいうと、不眠に悩んでいる方が多いですが。

西脇:健康の定義っていうのは、WHOから正式に発表されたりしてるんですよ。だけど、一番簡単な健康の定義っていうのは、「めし食って」、「くそして」、「寝る」、なんですよね。
つまり、快食、快便、快眠、なんです。その快眠でしょ?
だから、健康の3本柱の1つなんですよ。

で、特に最近よく言われるのが、生活習慣病に関連づけられてですね。高血圧だとか糖尿病だとか。
そういうふうな僕らの世代、60代過ぎ、いや50代からでもなるかな、そういう生活習慣病の予防のためには十分な睡眠を取ること、というふうに言われています。
でも、40代、50代の人の、だいたい半分近くは、いや半分以上かな?統計的には睡眠障害に悩んでいると言われてるんですね。

――そういう方は、やはり睡眠剤を、となるのでしょうか?

西脇:そうですね。だけど、飲み方を間違えると、また、選択の仕方を間違えると、いろいろ弊害も出てくる。

――弊害ですか。

西脇:眠剤には、短期型と中期型と長期型とあるんですよ。
その短期型とお酒と一緒に飲んじゃうと、ブラックアウト起こすこともあるんです。

――眠剤とお酒を混ぜると危険だと、確かに、漠然と駄目なんだろうな、とは思っていましたが、具体的な症状としてはあまり知らなかったです。

西脇:あと、お酒と眠剤だけじゃなしに、お年を召された方が、そういう超短期型の眠剤を使われると良くないケースもあるんです。

超短期型だとものすごく寝付きがいいんですよ。だけど、もう薬が切れちゃうと、そこでふっと目が覚める。それも寝ぼけた状態でね。そのときに、せん妄状態(※)になるんですね。

(※)せん妄状態:意識混濁に加えて幻覚や錯覚が見られるような状態。
健康な人でも寝ている人を強引に起こすと同じ症状を起こす。

――お酒を飲んでいなくても?

西脇:お年を召された方はお酒なしでもなることがあるんです。
手術後とかね、体力が落ちてたり、弱ってたりしてる方、特に、歳をかなり召された方がそういうふうな薬を飲んでると、せん妄状態になる場合があるんです。だから、使い方には注意が必要です。

――そういった危険性は、もっと広く知られてもいいことですね。

西脇:多くの精神科医は、広く世間に言ってるつもりだけどね。
でも、精神科医っていうのは、広報能力が非常にないんですよね。
で、いわゆる精神科の患者の偏見をなくそうとかなんとか言って、わけの分からない「心療内科」なんて標榜をして、自分が精神科医やってるのに...。
精神科医だから、「精神科」でいいんですよ。だけども、その精神科医がやってることが、どんなことをやっていて、どんなことがメリットか、どんなところにデリメットがあるかっていうことを伝える能力っていうのは、確かに精神科医はないと思います。
お酒との関係は用心しとかないといけないということは、やっぱり僕らもきちっと伝えなきゃいけないってことなんですね。

目次

【第1回】疾病構造の変化と西脇病院の変化
【第2回】いいストレスと悪いストレス
【第3回】志のない医者
【第4回】「普通の」精神病院