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  4. 昨今の飲酒にまつわる話題について③

エッセイ

いやはや大切な事を忘れていた。昨今の飲酒の話題、いや問題といえば、何といっても飲酒運転である。そこで、「昨今の飲酒にまつわる話題について」は3回シリーズにすることにした。

3年前の8月に福岡で発生した飲酒運転による悲惨な事故などを受けて、危険運転致死傷罪が設けられた。結果、飲酒運転の検挙者が減少したと伝えられている。厳罰化での検挙者が減少。それはそれで、結構なことである。しかし一方で、飲酒運転のひき逃げが極端に増えているらしい。確かに、一晩経てば概ねアルコールは検出されなくなる。そこで警察に出頭すると、危険運転致死傷罪は免れることになる。逃げ得といったところだろう。
それより私が問題としたいのは、先にも述べたように検挙者が減少したのは結構なことである。だが、これだけ厳罰化しても、飲酒運転を繰り返し、被害者を引きずり回して逃走するという新たな悲劇を生みだすほどの飲酒運転常習者が、まだまだ存在しているという事実である。しかし私は、その対策には法による厳罰化のみでは、むしろ逆効果であるとみている。

先頃、自らの飲酒の抑制ができなくなるアルコール依存症と飲酒運転との相関関係のデータが初めて報告された。それは国立病院機構久里浜アルコール症センターの樋口医師が神奈川県内で実施した調査で、飲酒運転の検挙歴がある男性ドライバーのうち、ほぼ2人に1人はアルコール依存症の疑いがあることが分かった、というものである。
となると、厳罰化、加えて直ちに懲戒解雇といった処分だけでは後の人生はただ落ちるだけだ。つまり、検挙者の多くがさらに深刻なアルコール依存症の道を突き進むことを意味する。俗にいえば、アル中街道まっしぐらである。これはこれで、検挙者の家族に与える影響を含めて新たな悲劇を生みだすことにもなるし、加えて、飲酒運転常習者を増やしかねない。それも無免許の・・・。
そのためには何らかの敗者復活戦といった、ここでもセーフティー・ネットが必要なのである。
これまでも、民間団体や専門家からは「厳罰化だけで飲酒運転は減らせない」として、常習的な検挙者には治療、回復プログラムへの導入を義務付けるなどの対策を求める声明が出されていた。だが、アルコール依存症と飲酒運転との因果関係を示すデータが警察庁になかったことから、そのような対策を講じる検討もなされないまま今日に至っていた。しかし、今回の樋口医師の調査結果を受けて、政府も今年4月から飲酒運転の常習検挙者を対象とした関係省庁の対策会議を設置し、全国の警察でも詳細な実態調査を行うことになった。
すでに米国では多くの州が、すべての検挙者にアルコール依存症か否かの検査を行っており、さらに州によっては、裁判所がアルコール依存症の専門的な治療プログラムの履修を命じている。今後の実態調査と、そのような諸外国の制度も参考にした上で、早晩、日本でも司法と医療、それに回復者グループとが連携したより進化した飲酒運転対策が制度化されることを期待したい。

「酔っぱらいとはウイスキー・ボトルの如しだ。クビと腹だけで頭がない」 :オースチン・オマリイ