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少年からの手紙

19

(月)

10月

エッセイ

高校一年生の少年から手紙をもらった。なかなか興味深い内容であった。そこで、彼の了解を得たので、ここにその一部を紹介したい。

『...西脇先生は薬物依存症患者さんも診ていらっしゃると思うのですが、その中でも覚醒剤の使用について、友人からよく聞く話が「覚醒剤を打って2001年宇宙の旅をみると10倍感動する」とか「ビートルズからの秘密のメッセージを受信できる」だとか、まことしやかに語られています。が、これはどの程度信頼できるものなのでしょうか。今僕は16才なのですが、この前「ライ麦畑で捕えて」を読んでとても共感・感動しました。今ここで「打ってから読めば秘密のメッセージが...」などと誘われたらすごく興味が沸くに違いない、と思うのですが、間違っているでしょうか。
覚醒剤は脳を活性化させる働きがある、とは保健で習ったので、これは単に感覚を過剰に敏感にさせた上での「感動」なのか、本当にそういう覚醒剤と組み合わせるジャンルがあるのか、疑問に思っています。(気になる理由は、先輩の「やった奴しか分かんね~よ」という一言です。これに対して自分をどうやって守ればよいのか悩んでいます。)...』

と。麻薬汚染がここまですすんでいるのか、と驚くばかりであった。
さらにこの後も、大麻の取り締まりに関すること、アルコール問題、それも彼の父親がアルコール依存症で、現在、ある回復者グループに属し断酒しているが、その父との距離の取り方などについての問いかけがなされていた。16才にしては、非常に文章表現も上手く、今の本人が抱えている悩み、疑問がよく伝わってくる内容であった。
そこで、私も彼の疑問について、直ぐに、思いつくままに返事を出してみたが、今になると、私の回答は十分なものであったのかと悔やんでいる。彼にもこのブログのことを伝え、彼からの2通目の手紙には、このブログを覗いてくれたことが記されてあった。そこで、次回のブログに、「少年からの手紙への返事」とでも題し、もう少し詳しい内容にして、彼の問いかけへの回答を掲載しようと思う。

そこで今回は、彼(手紙の少年)の「今」と「これから」について触れてみたい。彼はアダルトチルドレン(以下:AC)になる条件を備えている。彼もそこのところは十分理解しているはずだ。だから、私に手紙を書いたのであろう。
ACとは、アルコール依存症の親、ないしは、機能不全家庭(文末にて解説)で育った子供が大人になっていく過程でとる、物事への対処の仕方・対人関係のあり方が、成人に達してからの生き方に様々な影響を与えることをいう。
これは1970年代、米国の社会福祉援助に従事するケースワーカーの援助活動体験の中で生まれてきた用語である。だから、学術用語ではなく、また当然、病名、疾患名でもない。日本では1990年代から関係者の間で使われはじめ、それが今ではかなり一般化している。だが、2008年2月13日のテレビ朝日の二ュースステーションで、古舘キャスターが「大人になりきれていない子供」という意味で「アダルトチルドレン」を用い、翌日の同番組で謝罪したように、しばしば誤用されている。
ACには、その成長の過程から、幾つかのタイプに分けられる。「優等生」タイプ、「問題児」タイプ、「いないふり」タイプ、「ひょうきん者」タイプ、「お世話やき」タイプなどである。これらは、無意識的に健全とはいえない家庭のバランスを保とうとしたり、そこに身を置く自分を守ろうとすることで、それぞれ身につけるタイプであるといっていい。これは、成人に達した際に、問題として表面化することもあれば、才能として世に認められることもある。それを左右するのは、指導者(教師、上司)、職業、パートナーの選択によるところが大であると、私は思っている。
前回ブログに続き米国大統領が登場するが、ビル・クリントン元大統領の母は、薬物依存症の男性の選択を繰り返すといった問題を抱えており、そういった環境で育った彼は、大統領時代から、自らをACであると告白している。そして、そんな彼が、その才能を発揮し、米国大統領就任という大きな成功をおさめ、またその一方で、幾度か問題を起こしながらも、2期8年間、その職を務めあげることができたのは、良きパートナーである、ヒラリー夫人のおかげである。だが、彼は妻のヒラリーを大統領に押し上げることはできなかった。私は個人的には、オバマより、国務大臣としての仕事ぶりなどからして、ヒラリーの方が米国大統領に適任だと思うのだが...。これも、パートナーのACが問題であり、かつ才能でもあるといったことのなせる業であろうか。

ところで、手紙の主の少年のこと、本題に戻ろう。彼は高校一年生である。いい指導者にまず巡りあって欲しい。彼は多分、手紙の文章力からして、成績はいいはずだ。だが、彼を偏差値だけで評価する担任のもとで学んでもらいたくはない。むしろ、ACに親和性のある彼は、これまで身を置いてきた環境、父親との関係のあり方を模索する姿勢からして、精神的には早熟で、感受性が非常に豊かであると推察できる。だから、彼は傷つきやすい一面も持っているはずだ。そして、他人への配慮から、自分を傷つける人との距離の取り方に弱点があるのではないだろうか。
偏差値なんかどうでもいい。そんな彼の才能と弱点に気付いてくれ、彼のこれからの行いに関心を持ち続け、時に上手く軌道修正をかけてくれる師はいないものだろうか。そして、彼も早晩、恋をするであろう。その時は、ヒラリー夫人の様に能力があり、さらに彼女よりもっと美しい女性との出逢いがあることを願うものである。
繰り返しになるが「ACは問題であるが、才能でもある」。

次回のブログは、彼(手紙の少年)の問いかけにどれだけ答えられるものか、挑戦してみることにしよう。

(この写真はブログの内容には関係ありません)


*機能不全家庭:説明が難しいのだが、単に母子家庭、父子家庭、貧困な家庭といったものではない。外部からは立派な家庭として評価されていても、親が子供に対して、親としてそれなりの役割を果たしてない家庭のことである。
私たちの同世代で、子役でデビュー、俳優、司会者、そして参院議員となり女性運動家として活躍してきた中山千夏の近著〝幸子さんと私"の冒頭で「率直に言う。生まれてこのかた『母に会いたい』と思ったこともない」、「母から無条件に愛されている、と感じたことが、私にはあるか。ない。ぜんぜんない」と昨年亡くなった母幸子さんについて語っている。彼女もACOD(Adult Children of Dysfunctional Family)だったのだろうか。

*ACのタイプ分類は、特定非営利活動法人ASKの「回復のためのミニガイド⑦ 親の飲酒に悩む子どもたちへ」から引用させていただいた。