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少年への返事(その2)

10

(火)

11月

エッセイ

君は長崎ダルクの季刊紙『GOOD』に載せていた私の「依存すること」を読んで、それに関心を持ち手紙をくれたんだよね。そのようなダルクからの働きかけの他に、君たち高校生は学校でも、薬物使用の予防について、色々な活動を受けているんじゃないかな。今回は、君からの手紙をきっかけに、そんな日本での薬物問題対策について話させてもらいたい。

君は学校で、財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターのパンフレット、イベント、そう「ダメ。ゼッタイ。」の啓発活動に触れたことはないかい。もし、あるのなら、そのような中から、君が問いかけてきたような薬物問題に関する知識を得ているかもしれないね。

でも、どうなのかな。
あのセンターは1987年に厚生省と警察庁の肝いりで発足して、予算も潤沢でいろんなイベントを開くなどして、薬物問題の啓発活動・乱用予防といった、いわゆる「第一次予防」にはずい分力を入れているようだけど...。
ただ、そんな歴史と活発な活動を行っているだけに色んなこともあるんでしょうね。1993年10月のセンター主催の麻薬・覚せい剤禍撲滅運動月間「イエス・トゥ・ライフ・ヤングフェスティバル」千葉大会では、酒井法子(のりピー)も出演していたそうです。それで、最近、あるブログに彼女がそのイベントのキャンペーン・キャラクターを務めていたかのような記載があって、それに対して、センター側は、酒井法子が1993年のイベントに多くのゲスト有名人の一人として出演した経緯はあった、とその事実を認めておられる。だが、キャンペーン・キャラクターとしてではなかったとし、ブログ上のそのような記載の削除を求めていた。
それはよく分かる。そうだよね、10数年前に彼女の今を予測することなんて無理だよ。だから、そのイベントに出演していたことをとやかく言うのはおかしい。

まぁ、そんなことをネット上で知ったもんだから、以前ダルクの近藤さんにいただいた2002年6月13日の衆議院の青少年問題に関する特別委員会議事録(薬物乱用問題)のコピーを読み返してみた。
その青少年特別委員会には、財団法人麻薬・ 覚せい剤乱用防止センターの当時の理事長、日本ダルク本部代表近藤氏らが、参考人として出席されていた。そこで、センターの理事長は、一般人の健康に関しても「治療」から「予防」へ目が向けられ、治安面でも、事後の刑罰より未然防止が大事であるとして、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動について語られ、その「第一次予防」の重要性を強調されていた。
ここで面白かったのは、委員の一人である元総理大臣の二世女性議員が、10年ほど前の自身の学生時代を振り返り、
「...私は問題のある学校に行っていたわけでも問題のある友達を持っていたわけでもない。普通の学生だと思うが、そんな普通の学生でも手に入れるのが簡単で...遠い存在ではなかった...」
と述べていたことだ。そのくだりを読んでいて、君が私に手紙で色んな問いかけをしてきたわけが分かったような気がした。
「ダメ。ゼッタイ。」普及運動で薬害の怖さを知識として伝える限界と、そのために高い出演料を支払って多くの有名人(タレント)を起用して色んなイベントを行っても、何も伝わらない、振り向こうとしない若者たちが大勢いることが...。
だから、君は私に手紙を書いたんだ。そして「説得より納得」を求めてきたんだ。

ついこの前、10月28日のBSフジで、薬物汚染に関する番組が長時間流れていた。そこに出演していた国立精神・神経センターの研究所薬物依存部長の和田氏は、「第一次予防」については、日本は世界一であると語っていた。
そうだろうか。そこには茨城ダルクの施設長である岩井氏も出演されていた。彼は施設入所者のためのリハビリテーションの一環として、皆で温泉に出かけること、そして、和太鼓に取り組んでいることを紹介していた。その理由は、温泉に皆で出かけることで、温泉に浸かり心地よい体験をすること、そして、裸で語り合い心の寛ぎを得ることができる、と。また、和太鼓に取り組むことでは、上手く打てるようになることから、達成感を伴う快感を体験し、さらに、それを老人ホームなどで演じて称賛される、またこれも心地よい体験として入所者たちには必要だ、と。
これは「第三次予防」(再発予防)の観点から語っておられるのだが、「第一次予防」(乱用防止)にも、そのような視点が必要だと思う。スポーツ、音楽、文学、人と交流することで生まれる友情、愛情など、どれでもいいそんな中から、それにはそれなりの努力が必要だが、薬物から得られるものに勝る、素晴らしい心地よさ・快感が得られることを伝えるシステムというか、広報の術が日本の「第一次予防」には欠落しているみたいだけど、君はどう思うかい。
ただ、そんな片肺飛行の第一次予防対策で、潤沢な予算を使ってきたことついては、確かに日本は世界一だといっていいね。

おっと横道にそれたかな、議事録の内容に戻ろう。日本ダルク代表の近藤氏の話に委員(国会議員)の関心は集中していた。ダルクの活動は、薬物依存症者の回復、リハビリ施設の運営に留まらず、刑務所で受刑中の依存症者への働きかけ、また、医療と連携して重度の精神病状態に至った依存症者を医療へ導く作業や、さらには、教育機関(小・中・高校、そして大学も...)を訪れ自らの体験を語ることによる乱用防止の啓発にまで及んでいる。要するに、「第一次予防」(薬物問題の啓発・乱用予防)、「第二次予防」(早期発見・早期治療)、「第三次予防」(リハビリテーション・再発予防)の全てを担っている、といっていいね。そういった近藤氏の話を受けて、委員(国会議員)のお一人が、センターの理事長にダルク等との連携について尋ねている。
理事長曰く「...覚醒剤の中毒になった方々と連携しての行動はしたことがございません。...住んでいる世界が少し違う...」だそうだ。
質問した議員は、その答弁に失望した旨を述べ、頭の切りかえが必要では...と一言。そして、その後の質問の時間を近藤氏に割いてしまった。

因みに、財団法人麻薬・ 覚せい剤乱用防止センターは、最初紹介したように1987年、当時の厚生省と警察庁の肝いりでできた財団法人だ。そして、2002年の青少年特別委員会に参考人として出席した理事長も現理事長も、いわゆる「天下り」のエリートと呼ばれる人たちなんだ。その一方で、一次、二次、三次予防全てを担っているダルクの代表近藤さん以下、スタッフは皆、失礼だけど、格差社会でいえばどうみてもその反対側の貧困層に入るんだよね。困ったもんだ!
 
*ダルク(DARC)とは、ドラッグ(DRUG=薬物)のD、アディクション(ADDICTION=嗜癖、病的依存)のA、リハビリテーション(REHABIRITATION=回復)のR、センター(CENTER=施設、建物)のCを組み合わせた造語で、覚醒剤、有機溶剤(シンナー等)、市販薬、その他の薬物から解放されるためのプログラムを持つ民間の薬物依存症リハビリ施設です。