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エッセイ

うちの病院で一緒に仕事している同じ精神科医のF先生から「この本面白いですよ」と、一冊の新書を頂いた。タイトルは『脳に悪い7つの習慣』(幻冬舎新書)。著者は脳神経外科医の林成之氏である。うん、なかなか面白い。そのなかに、我々の脳には「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という本能があると書かれてあった。そのうち「仲間になりたい」は「人が喜ぶことが自分にとって嬉しい」と感じさせることで、それを「自分にとっての報酬である」と、とらえるように、脳の機能が出来ているからだそうである。う~ん、なるほどである。
長年、依存症者の集団療法を行ってきた私には納得できることだ。
だが、ここ10年あまりの自殺者の増加は、そんな"本能"までむしり取るような時代環境になってしまっているのだろうか。

昨日外来診察で、うつ病の患者さんが「12月は自殺が多いのですか」と尋ねてこられた。「何故ですか」と、こちらも問い返したところ、
「最近、テレビで草野仁さんとか、さだまさしさんたちが出演した自殺防止対策のキャンペーンCMが盛んに流されているのです。なんだか自分も引きずり込まれそうで、怖くなって気になったものですから...」と。
私は12月に自殺が急に増えることはないと説明したが、ふとずい分以前に、確かアメリカのシカゴだったかな、有力新聞が自殺防止キャンペーンを行ったところ、かえって自殺者が増加したということを何かで読んだのを思い出した。
今度のテレビコマーシャル、先の三つの本能のうちの「知りたい」の断片を本当にスポットで伝えているだけである。真の対策とは、『死を志向する人たち』の脳に向かって「(もっと)生きたい」「(もっと生きる価値を)知りたい」「(もっと多くの人と)仲間になりたい」といった思いをトータルに蘇生させることではないだろうか。
我々の税金によって生まれた対策費、本当にもっと慎重に検討し、より有効な活用法を考えて欲しいものである。予算消化のための安易なコマーシャル制作でないことを願うばかりだ。でも、この放映にどれだけの効果があるのだろうか。