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エッセイ

心の病が増えたんじゃなくて、増やしたのかな?

2011年7月、厚生労働省は心筋梗塞、脳卒中、癌、糖尿病に次いで、精神科疾患を5大疾病にした。先の4大疾病に次いで、精神科疾患を重大な疾患に指定された。
その患者数は、323万人である。他の4疾病で最も多い糖尿病でも250万人だ。新たに追加された疾病が、これまでの4疾病よりもその患者数がはるかに多い。何か不自然!?
一般的に重要な対策などを要する事項で、先に幾つかある対策事項に次いで加えられる事項は、本来、先にあげられている事項の件数とほぼ同数に達したことで認定されるのが通常である。

マスコミ各紙で報道されているこの5大疾病に関する疾病数の推移を表した表を見てみると、精神科疾患が急激な伸びを見せ始めたのは、今から10年程前、20世紀末である。
長崎でも、1998年に長崎市立市民病院の精神科が「偏見、差別を排除し、気軽に受診を!」といったキャッチフレーズで心療内科に診療科名を変更した。正確には第一標榜を心療内科にしたのだが...。もちろんそこで診療するのは精神科医である。その後、雨後の竹の子のように、長崎市を中心に県内で心療内科のクリニックが開設された。それは、全国的なものであった。確かに一般の方々は気軽に受診できると、歓迎されたようである。

古今東西、統合失調症の発症は100人に1人と言われ続けている。そして、統合失調症の発病時期は、その多くは10歳代後半から20代代だ。少子化である。むしろ減少しているはずだ。また、認知症も増加はしている。しかし、これも大幅な増加は我々団塊の世代が、もっと老いてからになるであろう。となると、精神科医が第一標榜する心療内科が、精神科疾患の323万人増加に大きく寄与しているのは間違いなさそうである。そんな心療内科に、統合失調症、定型うつ病、認知症の患者方が多く通院、とくに統合失調症の患者は近年、非定型精神病薬の開発も相まって、多くの方々が入院を必要とせず、街で暮らせるようになっている。喜ばしい...。気軽に受診できるようになった。これは、確かに精神科医療の敷居を低くした点では、おおいなる貢献、と言っていい。

ではそこで、この精神疾患がここ10数年間に120万人余りの増加したことについて、どの様な心の病が増加したのか、そんな増加した病への医療サービスの在り方とはどうすればいいのか、すでに5大疾病の一つとなって1年経過しているにも関わらず、どこからもその答えが聞こえてこない。
実は、精神科医療関係者の多くは、増加した病については分かっているのだ。
それは、最近話題の俗に言う新型うつ(病)とアルコール依存症〈他の依存症〉、さらには、それらを重ね持つ重複障害である。では、何故そのことを精神科医療関係者は、口にしないのか。その理由は、それら患者の多くを診療している心療内科を第一標榜としている精神科医の多くが、そういった病【新型うつ(病)、アルコール依存症〈他の依存症〉、さらには、それらを重ね持つ重複障害】の理解と治療の進め方を充分に身につけていないからである。すなわち、その様な病に関して教育、研修の機会がないまま開業しているのだ。長崎の場合、それは100%だと断言していい。
そして、心療内科を第一標榜する精神科医の開設する診療所、ないしはクリニックは、これもまた、その多くがビル診療所であることから夜間は無人だ。そこに通院している感情障害【定型うつ病、ないしは新型うつ(病)】、依存症者、それらが重複する患者は、夜間に不安、焦燥感に襲われることが多い。そこで、彼らは、処方された薬物を大量服薬、あるいは大量飲酒、そしてリストカット(手首を切る行為)、さらには自殺企図(生きたくないけど、死にたくない)などで救急隊にSOSを発信する。結果、救急隊、一般救急病院がその対応に振り回され、悲鳴を上げ、消耗しているのが現状である。

そこで、5大疾病の一つになった精神科疾患(323万人)にとって重要な対策として、私の提案は以下の4つである。
1)気分障害・アディクション(重複障害も含む)の重度評価とその診断基準の確立 
2)1)にあげた病に対する任意契約治療の進め方とそのためのチーム医療の教育・研修
3)精神科医が第一標榜する心療内科クリニックの位置付けと役割の明確化
4)一般救急病院と精神科病院間の精神疾患患者に対する搬送等の地域連携の強化

さて、5大疾病になった精神科疾患である。来年度から各都道府県は、その医療計画を立てねばならない。これまで精神科医療に関して低調であった長崎の保健行政が、どの様な医療計画を提示するか注目したい。