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  4. 西脇院長に聞く-【第1回】疾病構造の変化と西脇病院の変化

インタビュー

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2013年春、新病棟をオープンし、新たな一歩を踏み出した当院。
新棟のねらいやこれまでの当院の歩み、これからのビジョンについて、西脇院長に話を聞きました。今回はその1回目です。


―― 新棟である東館は、今年の4月にオープンされたんですね。

西脇:ええ。今年の4月にできたんです。
もともと新しい東館の場所には古い建物があったんですよね。
西棟も含め、なんでこんな風にストレスケア病棟にしたかっていうと、一番最初、精神病院っていうところは統合失調症の患者さんに対する医療と保護を中心に行う病院だったんです。 
それがどうも疾病構造がどんどん変わってきたんですよ。
そうですね、うつ病圏の患者さんとか依存症者の方々とかが増えてきた。
そこで、それに応えるために。

―― それはいつ頃からですか?

西脇:疾病構造が変わってきたのはここ10年、いや、もっと前からかな。
15年ぐらい前くらいですかね。

―― 意外と最近なんですね。

西脇:ええ。
15年ほど前からよく一般の救急病院に呼ばれて往診するようになったんです。      
それは、うつ病圏の患者さんが自殺を目的として大量服薬、手首を切る(リスト・カット)等で救急病院に運ばれる。
また、酒を飲みすぎた方が、内臓疾患で一般の内科などに入院、そこで、禁断症状が出てる、つまりアルコール依存症なんですね。

w01_01.jpgそんなして、一般病院の医師と親しくなり、色んな相談を受けている中で、他にも精神科医が関わらなければならない方が多いことが分かったんですね。
ところが、そんな方々を精神病院に紹介しづらい、と一般科の医師がおっしゃる。
その理由は「一般の方々の精神病院のイメージが暗い、怖い、汚いの3Kだから紹介しづらい」と。
「だから、街中に診療所を開設してくれ」と言われたんですよ。
そこで、眼鏡橋ってご存じでしょ? あそこに診療所をつくったんです(1995年)。
そうしたら、そこに受診、通院して来られる患者さんの中にもやっぱり入院させてあげないといけないなって方がおられる。
そんな方に入院をすすめて、西病棟も出来てない古い建物ばかりだった西脇病院を見学、ないしは入院をしていただきました。でも、見学された方は入院を遠慮なさる。それから、入院された方も、それこそ2,3日で退院されるんですね。

―― それは、病院自体が古くて嫌だと?

西脇:そうです。「こんな所に、おれない」と。
それで、これはなんとかしなきゃいけないわ、っていうことで、西病棟を10数年前に建てたんですよ(2000年)。
その西病棟は、1階を外来とデイケア施設。2階には幻覚とか妄想、興奮の激しい、従来から精神病院が受け入れてきた急性期の患者さんを。
そして、3階を、先ほどお話したいわゆるうつ病圏の患者さんと、これまで診てきた依存症者の方々を一緒に治療、回復のプログラムに導入できる病棟環境を整備したいわゆるストレスケア病棟にしたんです。
それで、長期に入院生活を続けておられる慢性の統合失調症中心の患者さんを残りの古い病棟(旧東棟)で処遇したわけです。
そうしたら、うまくいったんですよね。
確かに精神科疾患、精神障害っていうのを差別しちゃいけないけども、区別はどうもしなきゃいけないな、というふうに思ったんですね。

w01_02.jpgで、それをやってたら、どんどんそういう患者さん、新しいタイプっていうか、いわゆるうつ病圏内とか依存症、それも従来のアルコールとか薬物だけでなく、ギャンブル、ネット依存といった方々も、加えて、他のストレス関連疾患の患者さんの入院が増えてきたんですね。
ただ、そんな患者さんも少し長目の入院を必要としたり、それを希望されるときに古い病棟に移ってくださいって言ったら、嫌がるわけね。
その反面、行政の長期入院患者さんの地域移行推進に応じて、退院を促進させる、さらに長期入院患者さんが高齢化することで、身体合併症のため一般病院への転院、あるいは死亡退院されることで、古い病棟の空床が目立つようになったのです。
それじゃあ、奥の方の古い病棟も壊して、新しいものにしようと。

―― それで、今回の新しい東棟がオープンしたわけですね。

西脇:ええ。今は借金まみれで大変ですけどね(笑)

―― 先ほど疾病構造の変化というお話がありましたが、もう少し詳しく聞かせてください。
それは、そういううつ病とか依存症の方々が単純に増えたということなのか、それとも以前からいたのだけれど、受診することがなく、顕在化していなかったということなんでしょうか。

西脇:僕の考えでは、昔は統合失調症が精神病院の患者さんの主流だったんですよね。でも、以前から世の中には、うつ病親和性の人たちも多かったはずです。ただ、発病せずにすんでいたんでしょうね。
うつ病親和性の人が多い国っていうのはね、2つあるって言われています。ドイツと日本なんですよ。
日本では執着性気質、ドイツではメランコリー親和型と言われています。
こういった方々は几帳面で、協調性があって気配りのある人なんです。
だから、こういう気質の人たちがいたから、ドイツも日本も第2次世界大戦で、壊滅状態になった国なのに復興、再建ができたんだという論文もあるくらいです。

―― なるほど、社会に必要とされていたわけですね。

西脇:ええ。生真面目に几帳面に頑張って、コツコツと復興をする、立て直す。そういった環境、社会のときは、うつ病気質の人たちは病気にならなくて済むんですよ。社会がそんな人を必要として、上手く適応できていたんだと思います。
それを一言で言っているのが、芸人さんっていうか、もう芸人さんって言ったら失礼になるかもしれないけど、ビートたけしさんの「赤信号、みんなで渡れば怖くない」って。
あれは、うつ病気質の人たちがうつ病にならないで済むような生き方を、一言で言ってるんです。

―― そういう社会だから、今ならうつ病になってしまう人も、発病せずに適応できていたんですね。

西脇:一方、統合失調症(旧:精神分裂病)っていう患者さんが、昔は多かった、というか顕在化していました。そういう方々は、大家族、会社組織がしっかりと機能していた社会の中では生きづらかった。

w01_03.jpgというのは、統合失調気質の人は、周囲に気配りし、協調性を持って生活するのが非常に苦手な人たちなんですね。自閉、自分だけの世界の中で過ごしたい。
だから、家族制の中に同化したりとか、企業組織でみんなでスクラム組んで
成長していく社会、時代にはなじめない。
で、「そんなことしたくない」って外れたいんだけど、それができずに無理して枠の中に入っていると発病しちゃうわけですよ。だから、だいたい統合失調症も古今東西100人に1人と言われてるんだけども、今、現実に病院にかかっている方が少なくなっている。

―― 少なくなっている、というのは、実際に発病しないで済んでいるということでしょうか。

西脇:確かに発病をまぬがれている人が増えているのかもしれませんね。核家族、オンリーワン社会は、彼らにとって暮らしやすい。非正規雇用だって、社会問題になっていますが、これも組織に縛られないってことが都合がいいのかもしれません。

―― 誰かと深く関わらなくても生きていける。

西脇:ええ。人と接しなくていい。
だから、そういうので自閉(自分の世界)を保っている人が、現在は地域社会でもたくさん暮らせている、と思います。
それに、いい薬が開発され、診療所、クリニックで治療ができるようになり、病院に受診して入院までしなくいい患者さんが多くなってることも考えられますね。

―― そんな風に、社会の変化とともに疾病構造も変化してきて、それに合わせて、
西脇病院も変化してきたということですね。

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目次

【第1回】疾病構造の変化と西脇病院の変化
【第2回】いいストレスと悪いストレス
【第3回】志のない医者
【第4回】「普通の」精神病院