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  4. 西脇院長に聞く-【第4回】「普通の」精神病院

インタビュー

――最後に、院長先生のよくおっしゃる「普通の」精神病院について伺わせて頂きたいのですが。

西脇:さっきも話したけど、精神科医が広報の仕方が下手だっていうのは、そこにあるんです。
例えば「開放化」だとか、「患者さんの人権を守って」だとか、いろんなことを言ってるけども、あんまり地域に伝わっていないんですよね、それが。
よく考えたら、地域の人は、精神科疾患になった患者さんに接しているときに怖いときもあるんです。
例えば、患者さん本人が意図しなくても幻聴が聞こえて、なんか包丁持って振り回したりとかね、そんなこともあるんです。そういう人はちゃんと法に基づいて手続きを取って、きちっと行動を制限して、きちっとした形で薬物療法などをやらなきゃいけない。

で、うつになった方でも、何にもほど落ち込んだ人は、それなりにゆっくりできて、ナースセンターがすぐそばにあって、目が行き届くところにおいてあげなきゃいけない。
少し回復してきていろんなリハビリをしたい人には、看護師だけじゃなしに、作業療法士とかそういった精神科のリハビリの専門スタッフがきちんと対応しなきゃいけない。
で、医者も話を聞かなきゃいけないけど、医者は結構忙しいから、臨床心理士がいて、じっくり話を聞いてあげなきゃいけない。そういうものがあってはじめて、「普通の」精神病院なんですよ。
それがなんか、特徴を出そう、出そうとして、それから患者のことを思っていて、患者の人権を尊重した病院です、とかなんとか言ってるけど、本当にお前さんたち、それをやってんの?とか、それをやるばかりにほかのことが欠けてるじゃないか、とか。そういうふうなことでは、僕はいけないな、と思うんですね。
 
――特徴を出す以前の、基本の部分がおろそかになっている場合があると。

西脇:僕、以前、日本精神科病院協会の中で全国の色んな精神病院の看護指導者を養成するための委員会の委員を一時やってたことがあるんです。そういったことで、全国の精神病院の管理的立場の看護の方から提出されるレポートもチェックしなければいけないんですね。
そんな中で、ある精神病院の看護の方のレポートでした。多分そこは周りに一般病院もあんまり少ないところなんでしょう。だから、一般科のいわゆるプライマリーケア、初期段階の治療も行っていると書かれてありました。そして、全開放の精神病院だと...。
熱心な病院であることは伝わってくる内容でした。

そこの精神病院は、そんなことだから、確かに、地域から信頼されている精神病院であることは間違いないのです。
でも、その精神病院は全開放で、隔離室、つまり、精神症状の激しい患者さんの行動を制限して、治療を行う部屋がない。
措置入院(※)っていうのがあるんですけどね、自傷、他害のおそれがある患者さんに対する入院の形態です。そういう患者さんを受け入れる病院は精神病院だけが行えるのです。そのためにも隔離が可能な部屋が必要なんですね。
だから、いくら地域に親しまれていても、精神病院と標榜している以上はそういう部屋を1つぐらい持っとかなきゃ、他のことで信頼されていても精神病院としての役割を果たしているとは言えないのです。
精神病院の地域社会での役割についてそのレポートは考えさせられるものでした。

(※)措置入院:精神保健福祉法29条が定める、日本の入院形態の1つ。
「ただちに入院させなければ、精神障害のために自身を傷つけ、または他人を害するおそれがある」と、2名の精神保健指定医の診察が一致した場合、都道府県知事または政令指定都市の市長が、精神科病院等に入院させる制度。
(精神保健福祉法27条、29条)

――精神病院としての役割をきちんと果たせることが基本ということですね。

西脇:うん。そうそうそう。
だから、精神科としての役割をまずはしっかり果たせる病院としての機能を持った上で、余力があればそこの地域の色んな要請に応えていくのが「普通」の精神病院なんです。
そのメインは精神科疾患の患者さんの受け入れ、もちろん精神症状が激しい患者さんもですが、精神症状がなくとも、少ししんどくなったら静養目的、予防的な入院ができる環境があれば、それに越したことはありません。

――余力の部分というのが、それぞれの病院の特徴になっていく。

西脇:そう。たとえばうちは無料のオプションっていうのがあるんですよ。
グループ・ミーティングをやっているんですけど、入院中の患者さんのところにOBが来ていろいろ話して、社会での生活の工夫を披露してもらったり、復職後の上手な復帰の仕方など話してもらいます。
その原点は夜間集会って、もう40年近く毎週火曜日に18時45分から20時まで行っている集会ですね。
当初はアルコール依存症者の集いでしたが、今では依存症、うつ病圏内の方々が参加されています。そして外から来る人(外来患者さん、家族)は、無料なんですよ。

――無料!

西脇:無料のオプションをやっておくと、それが実はほら、デパートの物産展の試食。あれと一緒。
あれ、おいしいな、と思ったら、入院しようかなって。

――無料サービスをきっかけに(笑)

西脇:だから、混合診療なんですよ。今、日本、混合診療禁止してるでしょ。それは、有料と保険診療を一緒にしちゃ駄目だっていうことで言ってるんだけど、うちは無料と保険診療とを一緒にしてる混合診療なんですよ。

――なるほど、それが西脇病院の「特徴」のひとつになるんですね。

西脇:それ以外は普通の病院ですよ。

――西脇病院は、今後も進化し続けていくのでしょうか?
この先、さらに目指しているものなど、もしあれば聞かせてください。

西脇:そうですね、西脇病院は「うつ病」、「依存症」治療を特徴にこれから進化していこうとしています。

他の精神病院も、これから色んな特徴を持たれるでしょう。
そして、精神科のクリニック、診療所も増えています。
さらに、第1回で紹介したように総合病院、とくに一般の救急病院との連携構築が、これまで以上に大事になります。
そこで、迅速に情報がとれるシステム、とくに災害時などの対応には、各医療機関が今以上にお互いの顔が見えるようにしなければなりません。
それは、もちろん人と人との日ごろの交流が一番大切です。
それに加えて、精神科医療ネットインフラの整備が不可欠だと確信しています。
そんなシステムをこの長崎の地に是非、実現しなければいけないと思っています。現に今、その一歩を踏み出したところです。

――そうですか。
医療のネットインフラ整備の必要性は長らく言われてきましたが、ついにですね。
新たに設けられた連携システムについては、厚労省の標準化にも準拠していると伺っています。いずれは広く普及して、病院や患者さんの支えとなるものになっていくのでしょう。期待しています。
今回は全4回に渡り、ありがとうございました。

目次

【第1回】疾病構造の変化と西脇病院の変化
【第2回】いいストレスと悪いストレス
【第3回】志のない医者
【第4回】「普通の」精神病院