「愛国無罪」

25

(火)

09月

エッセイ

2週間前はNHKだった。今週は地元新聞の記者が当院に取材に入っている。何れも新人だ。それは、福岡の飲酒運転がらみの「アルコール依存症」診断ラベルはりに関する件の取材だった。
しかし、うちの治療システム、回復者の体験談に「目からウロコ」だった様である。

精神科病院の精神科医は、確かに診断をつけるのも医療業務の一部である。だが、治療方針を患者・関係者に伝え、治療を進めることまでやるのが本来だ。精神科の病の場合、統合失調症の様に病識欠如に至っていれば、心神喪失として、強制入院ができる。
しかし、アルコールを始めとする依存症は、否認の病である。この否認といった心理状態は、心神が喪失、耗弱状態ではない。我々も日常生活のなかで、諸々の出来事に遭遇して、都合の悪い時には、この否認の心が働くものである。

さて、依存症者の依存に対する否認だが、これは手ごわい。でも、これを治療的に扱わなくては、診断のラベルはりをしても何の意味もないのだ。

2012年9月3日朝日新聞社説『薬物再犯予防』のなかで、"この仕事に取り組む専門の精神科医は、参考人として呼ばれた参院で、みずからを「絶滅危惧種に近い」と嘆いていた。"

そう、依存症に対する知識、その治療の術、そして、最も大切な"否認への理解"について、医学教育の場で割かれる時間はわずかだし、精神科医療の臨床現場で若い精神科臨床医が実務するのは、皆無と言っていい。専門医、依存症治療に精通した精神科医がいない。そんな社会のなかで診断だけつけてどうするのだ。これは、糖尿病と診断して、食事療法のメニューを提示しないに等しい。

実は、アルコール飲料の飲酒運転、結果としての怠業による経済損失、家庭崩壊、健康被害はたばこの害どころではないはずなのだが...

そうそう、否認に近いものに「無視」がある。
長崎県の知事始め福祉保健行政当局は、例の「匿名のメール」の一件、1年以上経過しているが、「無視」の姿勢である。
しかし、あの略奪、破壊、放火を日系企業に行っても「愛国無罪」の中国との日中友好40周年に関しては思いの他乗り気だ。やはり、犯人隠避、職権乱用といった県、市職員の行為を無罪放免しているからだろうか。同類相励ます、ってところかな!

といったことで、10月にこれまでブログで書き溜めてきた「匿名のメール」の件、それに5大疾病の一つになった精神科疾患のことなどを整理、修正を加えて、「65歳の戦~生業は精神科医~」と題して出版予定にしている。本としてページをめくりながら読んでいただければ幸いである。