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エッセイ

統合失調症は古今東西、約100人に一人である。
しかし、統合失調症患者の精神科病院への初診者が、近年少なくなっている。当院でも昭和32年の開設当初は初診患者の半数以上が統合失調症患者だったが、現在は10%以下。一方、うつ病とかアルコールなどの依存症者が増えている。いわゆる疾病構造の変化が起きているわけだ。その要因については、今回は割愛させてもらう。
ただ、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下:精神保健福祉法)の第五条【定義】では「この法律で『精神障害者』とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質、その他の精神疾患を有する者をいう」と、いまだに統合失調症を第一に取り上げている。つまり、旧法(精神衛生法)成立から60数年間、この【定義】に関しては、ほとんど手が加えられていないのだ。そんな定義を基に整備されたのが精神科救急入院料病棟(以下:スーパー救急)である。その病棟の必須要件として年間に3ヶ月未満の新規、あるいは再新規(前回退院後3ヶ月以上経過)の非自発的入院患者を6割以上満たさなければならない。
非自発的入院とは、主に統合失調症者が幻覚妄想状態に支配され、病識を欠如したものである。確かにその状態の改善には3ヶ月、いや、それ以上かかることもある。そんな統合失調症の急性症状を3ヶ月以内で落ち着かせ、退院を促進させる目的は理解できる。
その様なスーパー救急を必要としたのは、次の様な時代的背景によるものだ。

以下は当院が今年4月に新たに病院新改築を行った旨の挨拶文の抜粋である。
「西脇病院は昭和32年(1957年)4月、56床で開設した精神病院です。当初は、社会の要請に応じて精神障害者の保護、収容に努めてまいりました。結果、私がこの西脇病院を継承した昭和57年(1982年)2月には、定床260床のところ、行政当局も容認のもと300人を超える超過入院患者を抱える当時としては普通の精神病院になっていました。」

お分かりだろうか。つまり、過去、精神科病院への受診、入院患者の主流だった統合失調症を今日、迅速に対応、治療をし、入院の長期化を抑制するためである。
しかし、先に紹介した様に、今日の精神科病院への受診者の疾病構造は変化がみられている。それにも関わらず、全国的にスーパー救急は増え続けている。そして、厚労省も精神科救急を5大疾病の一つになった精神科疾患の医療計画の重要な課題としているのである。

では、精神科疾患が5大疾病の一つになった要因は何だったんだろうか。1990年代後半に、心病む人が気軽に受診できる様にと、全国で精神科医が心療内科を第一標榜とする多くのクリニックを開業。結果、当時約200万人だった精神科疾患が、今日、約350万人に増加。そして、時を同じくして自殺者が3万人を超えた。それが大きな要因だといえる。
では、その自殺対策と精神科医療だが、確かに「死ね」と幻聴がある統合失調症者には、先のスーパー救急は有効であることは言うまでもない。だが、「自分は価値がない」と思い込んでいるうつ病者にスーパー救急が上手く機能するかは疑問符である。非自発的入院で、十分な観察は必要だが、管理的な空間での処遇は、彼らをさらに無価値な意識に追い込まないか...?一考の余地がある。

そして、依存症の入院で非自発的入院が行えるのは精神症状を有する時期である。つまり、アルコール依存症者のスーパー救急への非自発的入院の対象は、その多くが離脱、禁断症状の時だ。その出現期間は、概ね10日前後。よって、その後は自発的入院(任意入院)に切り替えるか、退院となる。
だが、ほとんどのスーパー救急を有する病院では、先の"3ヶ月、6割"の要件を満たすために入院となったアルコール依存症者の多くを非自発的入院で3ヶ月入院させているのでは...?。
また、5大疾病の大きな要因になった心療内科クリニックを受診する患者の行動化(大量服薬、リストカット等)は、スーパー救急ではなく、一般救急に搬送される場合が多い。そんな事を踏まえ、精神科病院では、任意契約で精神科疾患患者を診る技術がもっと必要ではと...、「うつ病」「依存症」治療の拠点病院を整備してみた。
今、精神科病院への入院は非自発的入院、とくに医療保護入院が増えているそうだ!先祖帰りしているのだろうか?