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少年への返事(その1)

01

(日)

11月

エッセイ

君は手紙で五つの質問をしていましたね。

  1. 覚醒剤を使用して作品を鑑賞すると何か特別な事が起きるのか、またそれは何故か。
  2. 大麻をやってはいけない理由とは何か。
  3. アルコール依存症は治らないのか。家族の接し方に「こうあるべき」という鉄則があれば...。
  4. 薬物は依存なしに止められるか。
  5. 薬物依存症者の作品はどうしてしばしば素晴らしいか。

だったよね。

まず、麻薬は、覚醒系(覚醒剤・ニコチン・コカイン等)と抑制系(アルコール・マリファナ等)に分けられています。これは薬理学的に明らかになっていることです。
そこで、覚醒剤ですが、その名が示す通り覚醒系です。そして、使用すると、脳中枢をさわやかに、そして元気にする作用があります。だから、ひらめき、素敵な発想が確かに生まれてくるのです。でも、心身ともに張り切りすぎると、その後が疲れますよね。君のように若くても体育祭の翌日は疲れているでしょう。そんな疲れを忘れて、ひらめき、素敵な発想を持続させるため、覚醒剤の使用を続けたらどうなると思いますか。そのひらめき、素敵な発想が進行した結果、ゆがんだ状態になり、幻覚・妄想といった精神病状態に発展するのです。そして、これは、覚醒剤を止めても「フラッシュ・バック」といって、ちょっとしたストレス状態にさらされると、その幻覚・妄想が再燃する人も多いのです。
また、身体的にも、そんな活力に満ちた状態を続けていたら、必ずガタガタ、ボロボロになるよね。そう、心身両面が荒廃する。つまり、廃人状態になるわけだ。だから、5の答えにもなるけど、素晴らしい作品を次々と作り続けるのは無理だよね。

次に、「合法と非合法」について少し話してみようかな。
アルコールはアメリカでは1930年代に禁酒法がしかれ、非合法の時期がありました。その正式な法律名は、合衆国憲法修正第8条といって、飲むのを禁止していたわけではなく、その製造・移送・販売を禁止したものです。ここで気をつけたいのは、その成立趣旨の一つに、米国のアルコール産業の多くがドイツ系企業にあったことです。つまり、第一次大戦の敵対国、ドイツの復興支援の抑制という政治的意図があったようです。そして、その法の廃止にも、裏社会(アルカポネに代表される密造酒)の問題もさることながら、大恐慌の中、アルコール産業が復活することで、小売店も含めて数十万人の雇用が生まれる、といった政治的・社会的な理由があったのです。
こうしてみると、その時代の政治、社会状況が、麻薬の合法・非合法に、ずい分影響を与えていることが分かるでしょう。日本でも、覚醒剤はヒロポンといって、戦時中は「眠気と倦怠除去」の目的で、軍隊や軍需工場で使用されていたんだよ。そして、大麻もしかりで、戦前までは日本人は使用する習慣がなかったので法的な規制はありませんでした。でも、戦後、GHQが当時、アメリカの化学繊維の世界進出を妨害するといったことで、日本の繊維産業弱体化の一つとして、麻栽培の規制をおこなったと、私は勝手に考えています。
だから、この合法・非合法という問題には政治的な影が見え隠れするのです。でも、法治国家日本で生活している以上は、その国の法は守るべきです。

そして、もう一つ、麻薬は、ハードドラッグとソフトドラックに分けることができます。『麻薬とは何か(清野栄一ら著:新潮選書)』によると、
「法律とは別に、...依存性も比較的強いものをハードドラッグ、マリファナの喫煙など、中毒性がないものをソフトドラックとする分け方だ。この区分けは必ずしも、麻薬の合法、非合法の区分と一致するものではない。多くの国で売買されているアルコールやニコチンを、依存性も死亡率との関連性も高いのを理由にハードドラッグとすべきだ、という主張もある。...」と。
これによると、健康被害・社会的に問題を及ぼすものは合法でもハードドラッグといっていいことになります。そういった意味では、現在、ニコチン(タバコ)が合法薬物の中で、ハードドラッグとしてやり玉に上がっている、といっていいでしょう。
しかし、健康被害とか飲酒運転等の社会問題が表面化しているアルコールは、まだどうも、ソフトドラッグみたいですね。何故でしょうか。これは、製造・販売しているのが、旧公社(現在民営化になっているが、一企業だけ。)か、多くの民間企業かによって、マスコミとしては「スポンサー」といった観点から温度差があり、その点がバッシングの程度にも関係してきているのかもしれません。 

また、依存症が治るかですが、依存症の代表的な症状、その対象に抑制不能になる体質ですが、何故そんな体質ができるのか、現在の医学では分かっていません。つまりブラックボックスなのです。だから、そうなったら抑制のかかるように治してあげることは不可能です。でも、依存症のもう一つの症状である「否認」(依存症者が自身を依存症であると認めないこと。)については、依存症者本人が認めればいいわけですから、使用したら抑制が効かなくなることを認め続け、それを使用しなければ再発することはありません。

それから、真の快楽、癒し、恍惚感、感動は、本来、努力して勝ちとるものです。それには達成感が伴います。それに比べれば、麻薬で得られるのはたいしたものではありません。

それと、依存症の方との距離の取り方だったかな。これはいい加減(自分の加減)が一番。
援助する側、関わりを持つ人があまり熱心過ぎると、その人に頼って、何とかしてもらえると思って、依存症者本人の回復を阻害することがあります。また、関わる人も巻き込まれて、少し専門的な用語になりますが、「共依存関係」におちいります。
とにかく、依存症と上手に関わるためには、まず自分を大切にすることです。もっと君の抱える疑問の答えが欲しければ、西脇病院で行っている夜間集会(依存症回復者の方たちの集団療法)とかACの集いに参加してみては如何ですか。そこでは「目から鱗」の話が聞けるかも!