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エッセイ

平成24年12月18日

田上 富久長崎市長殿

前略

しなければならないこと、しなくてもいいこと

またまたこりもせずこの1年あまりのブログをまとめて、「65歳の戦~生業は精神科医~」なるタイトルをつけて一冊の本を上梓した。

今回は第一章を、しつこく書き続けた「匿名のメール」に関する長崎の保健行政のいやがらせ、いじめについてである。第二章は、真面目に5大疾病になった精神科疾患への今後の取り組みについての私見を述べたものをまとめてみた。そして、最後に当事者、とくに依存症者の生き様を物語った。

これまでと違ってまとまりがよく読みやすいと好評である。
色んなご意見もいただいたが、そんななか、ある専門的知識をお持ちの方から、「匿名のメール」のくだりで行政が「個人情報保護法」を盾に当方の情報公開を阻んだことについて、『あれは「公益通報者保護法」の適用だよ』とご指摘をいただいた。


では「公益通報者保護法」とは何かを調べてみた。
第一条の【目的】は「この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。」となっている。

なるほど「匿名のメール」を発信した通報者を保護する目的であり、それが国民生活の安定、社会経済の健全な発展につながるとのことの様である。

では、「匿名のメール」の通報者は、長崎県の福祉保健部に通報している。
このことについては、三条の二の【行政機関への公益通報の要件】で「通報致傷事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等を有する行政機関に対する公益通報」としている。

そして、第十条の【行政機関のとるべき措置】では、「公益通報者から第三条第二号に定める公益通報をされた行政機関は、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他適切な措置をとらねばならない。」とある。

ここで、行政機関が必要な調査を行うために、通報があった旨、その通報内容、通報の経緯等を記録する記載用紙(公益通報報告書)の作成がまず必要であり、それをもとに調査、協議が行われることになっている。これは民間企業、機関においても、もちろん同様の「公益通報報告書」は存在する。そのような報告書に基づいて協議、そして調査が行われるのが本来である。
しかし、弁護士を通しての当院よりの問いかけに、そのような報告書、協議、調査を行い決済がなされた書類などは一切存在しないと、行政側から回答を受けている。
ただただ、驚きである。あれだけ書類の整備にうるさく、監査時などにも執拗に重箱の底を突くごとく書類の不備を指摘する行政がである。
昨年の長崎市当局の監査後に、当院が監査に協力的でなかった旨の指摘をいただいたが、匿名重視の長崎の行政の在り方に沿って、行ってやっただけである。(詳しくは、2012年1月31日掲載 ブログ『行政改革』参照)
治政者の言論の権利は賛美しても、市民の選択の権利は認めないファッショ的な姿勢が継承されているからであろうか。

一方で、そんな長崎市から、一見非常に真面目ともとれる公文書が送られてきた。
それには、「長 地 保 号 外 平成24年11月22日」と冒頭に記されている。宛先は医療法人志仁会 西脇病院 病院長様だ。差出人は長崎市市民健康部地域保健課 課長名になっている。まさしく公文書である。
そこには、「平成25年秋の叙勲...の候補者推薦について(依頼)」となっている。そして、「長崎県から推薦依頼がありました。...別添の要領等を参照のうえ、貴病院に勤務しておられる方で該当の方(...『叙勲Ⅱ類』に該当する看護師等)がおられれば...推薦いただければ...」と記載されている。なるほど、この通知を市内全ての医療機関に送られているのだ、と感心をした。

そして、県からの分厚い添付の資料に目を通してみた。そこでまず気になったのは、3の留意事項の(2)である。そこには次のように記してあった。
「同一団体等に関する候補者を同時に2人以上推薦することは、特に避けるように配慮してください。」と。
さらに、(6)には、「県レベル以外(市・郡・町等)の団体から推薦したい旨の連絡があった場合は、県レベル団体と調整を行ったうえで提出してください」とある。

長崎市内のほとんどの医療機関は長崎市医師会に所属し、長崎県医師会にも所属している。また、そこで従事する看護師は長崎県の看護協会に所属し、他の医療職もそれぞれの協会・団体に身を置いている。私自身も長崎県精神科病院協会の会員である。
各市町村長宛ての添付資料は、そんな団体向けにも発送されているはずだ。そうでなければ、3の留意事項の(2)と(6)からして、この件で、各機関に発送する作業もだが、市当局側で推薦者を再度、関係団体に打診して調整を行い、該当者を絞り込むのは相当ご大変な業務になる。経費(=税金)もかさむだろう。
どうも各市町村長に宛てた県よりの通知は、その自治体に所属する消防士、民生委員の方々が対象であると理解していいのではないだろうか。

また、該当者の報告期限が2012年12月5日になっていた。
そして、市の公文書には、最後に該当者がいなくともその旨、連絡いただきたい、と書いてあった。だが、当方は何の回答もしなかった、しかし、締切期限から10日以上経過しているが、市当局から何の確認の問い合わせはない。

どうも、長崎の多くの公職に就かれている方々は、「しなければならないこと」と「しなくてもいいこと」の区別ができていない様である。

そうだ、2012年12月21日(金曜日)に例年行われている長崎市地域保健当局の定期監査がある。昨年は先に述べた様に長崎の行政が重視する「匿名」で対応したが、非協力的とのご指摘だった。
今年はどうしようか。こんな先に紹介した「する、しない」かの理解に苦しむ行政のお仕事ぶりだ。そうだ、この1年半ほど前から長崎の行政が続けておられる「見て見ぬ振り」、いわゆる「無視」という行為をとらせてもらうことにしよう。それなら問題ないだろう。そしたら最後の総評もいらない。国語の勉強でもやり直して、"しなければならない"公文書でご報告をいただいていいだよね、田上富久市長殿。

因みに、見識ある公職の方は、当初紹介の「65歳の戦~生業は精神科医~」の第二章に関心を寄せていただいた。そして、今後の精神科医療の医療計画の作成について意見を求めてこられたり、また、当院が取り組んでいる精神科医療と一般医療との連携に絡むネットインフラの構築に関する集いにも参加いただいている。これが、本来の公職に身を置く方の姿勢だと思うが、見て見ぬ振りの長崎の2人首長とそれに同調されている関係者の方々、如何なものだろうか?                        草々

                 西脇 病院
                       西脇 健三郎