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エッセイ

昭和22年に始まった朝日新聞の4コマ漫画、サザエさん一家は年を取らない。フーテンの寅さんは、毎回マドンナに恋心を持つが実らない。釣りバカの浜ちゃんとスーさんの関係も毎回、職場と釣りに出かける時には立場が逆転している。
何れも同じことの繰り返しで、ありえないこと。だが、その非現実性と、常に同じという安定、安心感が多くの国民を非日常に誘い込み、作者(長谷川町子)、主役(渥美清)らの他界、釣りバカ・シリーズ終了後も、その人気は衰えをみせない。

一方、島倉千代子は、「人生いろいろ」に代表される、日常の人の世の移ろいを歌い続け、私たちに感動と共感を与えてきた。私は「東京だョおっ母さん」が好きだ。
~先の戦争で兄を亡くした(戦死)娘が、母を上京させ、兄が眠る靖国神社、そして復興途上の東京を案内する~そんな時代(昭和32年:1957年)に、ヒットした歌だ。そういった当時の庶民の心模様が、今聴いても伝わってくる。


そして、これからが本題だ。しかし、これまでの話とは全く関係はない。

「何故、ほぼ40年前(私が20歳代後半)に多くの精神科医が嫌がるアルコール依存症(当時は慢性アルコール中毒)の医療を始めたのか」と最近よく聞かれる。その詳細については、近々、西脇病院ホームページのK's TALKインタビュー【第3回】『志のない医者』でふれているので、掲載されたらご一読いただきたい。

それは、5人の入院中のアルコール依存症者と当直医である20歳代後半の私が、毎週一回始めたミーティングからである。退院患者も通って来てくれた。数も増え、そのうち、薬物依存、病的賭博(ギャンブル依存)、病的窃盗(万引き依存症)、摂食障害、そして、うつ病などの他の精神科疾患を併用した患者も通って来るようになった。来るものは拒まず。だから、うちの病院に通院してない当事者も常連さんで、長年通って来ている。西脇病院自体もそのミーティングを軸に様々な集団療法が色んな職種のスタッフによって行われる様になっている。

また、社会に目を向けても、アルコール依存症、あるいはアルコール関連問題に関する「アルコール対策基本法」が関係者の尽力で立法化間近である。そして、薬物依存症回復施設(ダルク)の諸君は、刑務所に収監されている薬物依存症者にメッセージを届ける様になった。さらに、過程依存であるギャンブル依存症者も物質依存であるアルコール、薬物依存症者同様に当事者の会(自助グループ)を立ち上げ活発な活動を展開している。

様変わりだ。もちろん、西脇病院のARPも「アルコールリハビリテーションプログラム」から「アディクション(嗜癖)リハビリテーションプログラム」へと名称を変更した。

こんな変化に付いていこうとしているのか、まだ理解が今一つなのか分からないが、最近の新聞記事を幾つか紹介してみたい。

2013年11月13日長崎新聞より『元長崎市職員盗聴認める 検察執行猶予付き懲役求刑』
記事によると「執行猶予期間中に性犯罪者処遇プログラムの受講を義務付ける...」と書かれている。趣旨はよく分かる。

それに関連するが、2013年5月4日読売新聞が
「警察庁は、ストーカー行為を繰り返す加害者に対し、専門機関で治療を受けるよう促していく方針を決めた。」と報じている。
確かに依存の類型には【物質依存、過程依存、関係依存】がある。上記については、過程依存と関係依存が混在していると理解すべきだろう。しかし、精神疾患か、つまり治療、回復援助の対象であるかというと、国際疾病分類:精神および行動の障害(以下ICD10)では、性嗜好障害(F65)になるだろう。ただ、彼らの専門治療、回復施設が日本に存在しているのを私は知らない。

また、2013年8月1日、厚生労働省の研究班が公表した「ネット依存」に関する記事を日本経済新聞が掲載している。「ネット依存」は過程依存であることに異論はないが、診断となると、ICD10では該当する診断名は見あたらない。ましてや、専門治療、回復施設の存在も、これまた私は知らない。

ここで2013年11月16日長崎新聞の小さな記事であるが、『女性の受刑者20年で倍増:犯罪白書』を紹介しておきたい。その記事の中で、「昨年摘発された女性高齢者...8割が万引きだった。こうしたデータから、高齢者が万引きで服役するケースが増えている...」と。

これに関連するものとして、2013年11月15日長崎新聞に『9月に窃盗容疑で逮捕 佐世保の教諭免職 県教委』と報じられていた。記事の内容によると、スーパーでの食品の万引きである。この1年あまりの間に15回程度繰り返した、とのことだ。

高齢者の万引きも、この教諭の行為も精神疾患の「病的窃盗(F63.2)」、ないしは「うつ病性障害(F32-33)よる窃盗遁走」の可能性が高い。ただ、その記事では県教委義務教育課は「通院や心身の不調は認められない」としている。だが、同日の朝日新聞には「...家庭や学級運営の悩みから精神的に不安定になり...」と記されている。
ここで、【通院や心身の不調は認められない】にこだわってみたい。

些か古くなるが、1994年4月20日長崎新聞で『公務災害認める 過労から「うつ状態」に』との記事が報じられている。その記事によると、この公務災害を認められた佐世保市職員は精神科への受診、通院歴はない。ただ、自死後、長崎大学付属病院(精神神経学教室)の医師(精神科医)は、組合から依頼され「...仕事上のストレスによる反応性のうつ状態(反応性うつ病)にあり...自殺に至った」との意見書を提出しており、それが労災認定の根拠となっている。そして以後、今日まで受診、通院歴がなくとも、精神科医の同様の意見書で30数件の労災認定が認められている。

となれば、今回の教諭も懲戒免職を決定する前に、少なくとも厚生労働省の職場のメンタルヘルスの指針に沿って、通院がなくとも精神科医に診察してもらい、意見を聞くのが本来ではなかろうか。

いや待ってくれ、2011年、当時の教育長は、教職員の不祥事対策に心身医学を専門とする心療内科医を起用、との談話をマスコミに語っている。さらに、県当局も県職員のメンタルヘルスについては、職員厚生課の県職員向け案内パンフレット「必見:平成25年度職員相談(メンタルヘルス)について」にも嘱託医を心療内科医としている。だが、近年、職場のメンタルヘルスが問われている中、長崎県では、県職員、県教職員の不祥事について、闇雲に処分、処分で事足れり、としている様である。
私は、2000年当時、既にこの様な職場のストレスとアディクションについて、県当局の要請でしばしば講演、講義を行ってきた。その時作成の私のオリジナルスライド原稿の一部は、県当局が無断で県の啓発パンフレットとして、県内で多数配布されている。私としては、アディクション(嗜癖・依存問題)の理解につながればと、黙認してきた。しかし、現状を知るにつけ、時効かもしれないが、ロイヤリティーを求めたくなる。
これからは、「依存もいろいろ」はもっと広がりをみせ、さらに社会問題化するのは必須である。

中村法道知事始め、県幹部職員がお得意の「見て見ぬ振り」ではダメだ。一つ真摯に取り組んでいただくことを切望する。

↓以下、県が私に許可なく作成のパンフレット
物質依存の本態と治療リハビリテーション